夏目漱石の『夢十夜』を映画化。原作に忠実に映画化というのではなく、新たに解釈・発展・展開させています。
第三夜・第四夜・第六夜・第十夜などは理想的な成功例ではないでしょうか。
一方、大御所が監督・脚本を務めた第一夜は映像の力技で見せますが、よく考えるとよく分からない展開で、第八夜は議論の分かれるところ。
私は特に第八夜について、映画の分かる友人と議論したいところです。
以下、感想を書きましたので、コメントよろしくお願いします。
第一夜 監督:実相寺昭雄、脚本:久世光彦
出演:小泉今日子(ツグミ)、松尾スズキ(百閨j、寺田農、堀内正美
監督も脚本も大御所で、検索したところ、ネット上での評価も高い作品ですが、私はよく分かりませんでした。
確かに映像は綺麗なのですが、意味が分からない。
主人公が夏目漱石ではなく内田百閧ノなっている理由も分からない。
時間が逆に回ってるなどと思わせぶりな描写が続くのですが、必然性があるのか。
単なる不条理劇ではないのか。
こういった一般向けの娯楽作品で不条理劇をやられても……という感じ。
(ネット上の感想を読んでいて、そもそもこの映画は「夢」を描いていたことに気付きました。確かに夢は不条理で理屈に合いませんね。
私の独断と偏見で、あくまで一つの短編映画として論じさせて頂きました。)
[wikipedia:不条理演劇]
第二夜 監督:市川崑、脚本:柳谷治
出演:うじきつよし(男)、中村梅之助(和尚)
白黒無声映画風に描いて面白い。10作品中、原作に一番オーソドックスな映像化。
第三夜 監督・脚本:清水崇
出演:堀部圭亮(夏目漱石)、香椎由宇(夏目鏡子)、櫻井詩月(愛子)
私が嫌いなホラー的描写もあったのですが、物語的には面白い。
原作も十分に怖く凝った作品なのですが、それをさらに怖く凝って発展させている。
成功例ではないでしょうか。
第四夜 監督:清水厚、脚本:猪爪慎一
出演:山本耕史(夏目漱石)、菅野莉央(日向はるか)、品川徹、小関裕太、浅見千代子、市川夏江、渡辺悠、鶴屋紅子、佐久間なつみ、日笠山亜美
レトロな町や大道芸人(飴屋)の描写を堪能。
原作では飴屋だけが消えていくのですが、本作品ではもっと怖く。
私はこの作品が一番好きです。こんな分かりやすくすっきりとまとまった作品が好きなのです。
(解釈が分かれるような不条理劇は嫌い。この感想文もその観点から書いていることをご了承下さい)
手塚治虫の短編『カノン』を思い出しました。
なお、尋ね人の貼り紙の中に「森庄太郎」の名前が。
第五夜 監督・脚本:豊島圭介
出演:市川実日子(真砂子)、大倉孝二(庄太郎)、三浦誠己、辻修
原作に「天探女」という不気味な存在が登場します。その不気味さをクローズアップした作品。
投げやりみたいなラストですが、これで良かったのですか?
第六夜 監督・脚本:松尾スズキ
出演:阿部サダヲ(わたし)、TOZAWA(運慶)、石原良純
なかなか軽快で愉快な再話。
「結局彫る人間のサイズに
あったものしか埋まってないのだ」
というオチは面白い。
私が彫ったら……何も埋まってないのかもしれない。
第七夜 監督:天野喜孝、河原真明
出演:sascha(ソウセキ(声))、秀島史香(ウツロ(声))
巨大な船をCGアニメで描写。CGならでは。
第八夜 監督:山下敦弘 脚本:長尾謙一郎
出演:藤岡弘、(夏目漱石、正造)山本浩司、大家由祐子、土屋匠、森康子
折角原作は面白いのに、その素材を生かし切れなかったというか、
部分的に面白い描写があるのに、それを生かし切れなかったというか。
最初、子どもが田んぼの中から大きなものを掘り出す。
家に持って帰るが、母親から飼えないと叱られる。
「モノになるの?」
「モノになる!」
田んぼの中から掘り出したものは、この子どもの才能を象徴的に表したものだと考えれば面白い。
ザリガニのような小さくまとまった才能を持った才人が
「あいつにはかなわない」
と絶望して同じ道に進むのをあきらめるような途方もなく大きくてよく分からない才能。
周囲の人や子ども本人にすらどう使っていいのか理解不能のとてつもない才能。
そばで、かつて自分も「モノになる!」と言ったことのあるおじいちゃんが今までの人生を振り返りながらそのやりとりを聞いている。
……と解釈すれば面白いのですが、その後の展開がグダグダでよく分からない。
おじいちゃんが障子の後ろを歩くのですが、これは今までの人生を表現しているのでしょうか。
むしろ、子どもの影が段々大きくなって、子どものその後の人生を表現する方が面白いと思うのですが。
そして、おじいちゃんが現代的な部屋の2段ベッドに寝るという、わけのわからない展開。
ここはむしろ、「モノになれなかった」子どもが、「モノになる」可能性を秘めた孫娘に世代交代した、と解釈した方が面白い。
『2001年宇宙の旅』の最後で、宇宙人がベッドに横たわっているシーンを思い出したり。
……と思っていたら、夏目漱石の執筆シーンになったり。これは単なるコントの小ネタだろう。
……と思っていたら、脈絡なく床屋から帰るシーンになったり、時々現れる金魚売りは一体何なのだ、と、部分的には思わせぶりで面白い描写が雑然と切り貼りされていてよく分からない。
ところで、「庄太郎」さんは、原作では重要人物と思われます。
あの「庄太郎」さんがどんな形で登場するか、ファンとしてのがキーポイントなんです。
原作には登場しない第四夜や第五夜では登場して「(ファン心理を)分かってるな」ですが、肝心の第八夜には登場しなくて「分かってないな」です。
子どもの名前が「庄太郎」だったとしたら面白かったのですが、友人達から「ミツ」、母親から「みつくん」と呼ばれています。
とすれば、おじいちゃんの名前が「庄太郎」なのでしょうか。
(ウィキペディアには「正造」と記述されています)
ともかく、一般向けのエンタメ作品で難解な文芸作品や不条理劇をやるな、もっと分かりやすくしろ、と言いたいです。
(よく考えると、原作も、わけのわからない描写が脈絡なく次々と出てくる展開ですね。)
(追記)
メゾン・ド・キノコ
「ユメ十夜」クイズ形式感想文!
http://yaplog.jp/kinoko2006kun/archive/185
↑「オリジナルの巨大生物とコメディオチの意図するところはわかったけれど」
の記述が。そこのところを詳しく説明して頂きたいところです。
第九夜 監督・脚本:西川美和
出演:緒川たまき(母)、ピエール瀧(父)、渡邉奏人
原作は幕末の討幕・佐幕の紛争時代を舞台にしているようですが、この映画では太平洋戦争に舞台を移しています。
戦争はいつの世も一般庶民を苦しめます。
原作は、戦争によって苦しむ一般庶民の生活を描いたものと思われます。
この映画も、出征前の父親と、残った母親と子どもの描写で戦争の悲しさを描いています。
しかし、出征後の父親の描写が、どうもふざけているような感じで、しかも、ラストに「ちょうど時間となりました」とふざけたようなナレーションが入る。
多分父親は亡くなったのだろうけど、真面目に真正面から反戦を訴えずにふざけたような描写となったのは、照れ隠しか反戦思想が危険思想とされつつある“一億総右傾化時代”への対応なのか?
……と、もし自分に赤紙が来て出征する立場になったら、恐ろしくて狂って自殺してしまうだろうと思う私の感想です。
第十夜 監督・脚本:山口雄大、脚本:加藤淳也、脚色:漫☆画太郎
出演:松山ケンイチ(庄太郎)、本上まなみ(よし乃)、石坂浩二(平賀源内)、安田大サーカス、井上佳子
あまり俳優やお笑い界のことを知らない私でも知ってる俳優さんやコメディアンが多数出演していて、出演陣が豪華。出演料だけで予算オーバーしそうなのに、映像も凝っています。
原作の「豚に舐められる」をこんな風に描写したのかと面白い。
なかなか楽しめる作品。
……以上、一部厳しく批判しましたが、なかなかいい映画でした。
原作がある作品をこんな風に解釈・発展していく作劇も面白いものだと思いました。
そして、私もいずれ、『夢十夜』をこんな風に発展・展開させた小説を描けたら……と思いました。
[wikipedia:ユメ十夜]
[wikipedia:夢十夜]
『夢十夜』についてつぶやいた
http://sanshirou.seesaa.net/article/435187082.html
http://sanshirou.seesaa.net/article/435371562.html
Alpha-Blog ユメ十夜(ちょっとだけネタバレ)
http://mudhatter.at.webry.info/200703/article_1.html
狂賃走車ノ呟キ 「ユメ十夜」を観てきました。
http://crazytaxy.blog61.fc2.com/blog-entry-192.html
(´-`).。oO(蚊取り線香は蚊を取らないよ) ユメ十夜 85点(100点満点中)
http://blog.livedoor.jp/tsubuanco/archives/50913091.html
お楽しみはココからだ〜 映画をもっと楽しむ方法 「ユメ十夜」
http://otanocinema.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_17e4.html
from fm in blog ユメ十夜
http://fromfm.blog70.fc2.com/blog-entry-115.html
アロハ坊主の日がな一日 [ ユメ十夜 ]漱石からの挑戦状
http://blog.alohabouz.jp/?eid=616900
海から始まる!? もっともっと映画『ユメ十夜』を楽しむ!
http://umikarahajimaru.at.webry.info/200702/article_20.html
とらびし秘宝館 映画『ユメ十夜』
http://blog.goo.ne.jp/torabishi/e/dc33601490dc77bf5246dccca5299e60
HP de るってんしゃん 映画「ユメ十夜」の話。その2
http://plaza.rakuten.co.jp/ruttenshan/diary/200703100000/
傍線部Aより愛を込めて 〜映画の傍線部解釈〜 感想「ユメ十夜」
http://sidelinea.hatenablog.jp/entry/2014/06/17/174854
死して屍拾う者無し 映画評/「夢十夜」
http://dokurock.exblog.jp/10058350/
「ユメ十夜」
http://www.sakawa-lawoffice.gr.jp/sub5-2-b-06-254yumejyuuya.htm
ブクログ http://booklog.jp/item/1/B000QW7NNO
夏目漱石の夢十夜 世にも怪奇な物語
http://www.tvdrama-db.com/drama_info/p/id-26685
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ラベル:夢十夜
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